要点

  • 病院が20〜30人規模になっていくと、技術的に崇拝されていない院長のもとから、人は離れていきます
  • 「3年から5年勤めると、もうここで教わることはなくなった」と感じる獣医師が必ず出てきます
  • これは謙虚さの裏返しではなく、技術を追求したい志 の現れだと私は捉えています
  • だから、目的を「3〜5年で一人前」で止めず、認定医取得 → 認定医が活躍できる現場 へと 変化させていく ことが必要です
  • 目的が次々と進化していくことを、ティール組織は「エボリューションパーパス(変化する目的)」 と呼んでいます
  • 自分でジャッジして自分で仕事をしていく — それが、人にとって 一番楽しい状態 ではないかと思っています

1. 20人、30人になった時にぶつかる壁

動物病院の規模が20人、30人と大きくなっていくと、必ずぶつかる壁があります。

技術的にすごく崇拝されている院長でなければ、人は離れていく。

これは、私が現場を見ていて感じていることです。

院長が技術の頂点にいて、若手はみんな「あの先生から教わりたい」と集まる構造。これは、頂点が変わらない限り維持できます。でも、若手が育ち、自分でも技術が取れるようになってくると、その構造は揺らぎ始めます。


2. 「もうここで教わることはなくなった」

私を含めて、勤務経験のある獣医師なら、おそらく理解できる感覚があります。

3年から5年勤めると、ある日こう思う瞬間が来ます。

「もうここで教わることは、なくなったな」

これは、謙虚な気持ちというよりも、ちょっと 高飛車な感覚 に近いかもしれません。本当にすべてを教われたわけではなくても、本人の中では「自分は次のステージに行くべきだ」と感じてしまう。

そして、これが立派な退職理由になります。

止めても止まらない。でも、それは責められることでもないと、私は思っています。なぜなら、その奥にあるのは 技術を追求したい という志だからです。


3. 退職を止められなくても、組織でできることはある

技術追求の志を持った人を、組織として 完全に引き止めることはできない かもしれません。

ただ、こうも思うんです。

働きやすい病院で、自分の何かを追求できる割合が高ければ高いほど、長期で勤めやすくなる。

ここに、組織側でできることが残っています。

「教わることがなくなった」と感じた瞬間に転職を選ぶか、それとも「ここでまだ追求できることがある」と感じて踏みとどまるか。その分かれ目を、組織の側で設計できる余地 があるのです。


4. 3〜5年で目的が達成された後、次に何を提示するか

具体的に考えてみます。

たとえば、若手獣医師が「3年から5年で、一人前の獣医師になりたい」という目的を持って入ってきたとします。

その目的が達成されたとき、おそらく 転職の波 が一つやってきます。「一人前になった、次のステージへ」という心境です。

ここで、もし同時並行で 別の目的 を持ってもらえていたとしたらどうでしょう。

たとえば、専門分野の認定医を取りたい という目的。これは、一人前になることと並行して、まだ達成されていない。

「3年頑張ったら、認定医が取れた。さあ次は、この認定医として活躍できる現場が欲しい」

こうなった瞬間、目的が変化した ことになります。最初に来た時の目的は終わったけれど、新しい目的が立ち上がった。退職ではなく、次のステージへの移行が組織の中で起きる。

これが、私が ティール組織 の中で最も大事だと感じている考え方です。


5. エボリューションパーパス — 目的は進化していい

ティール組織には、3つの基準があります。

  • 自律性
  • 変化する目的(エボリューションパーパス)
  • 全体性

このうち真ん中の 「変化する目的」 が、今の話の核心です。

組織の目的、個人の目的、どちらも 固定ではなく、進化していく という前提に立つ。これがエボリューションパーパスの考え方です。

「一人前になる」が達成されたら、「認定医を取る」へ。
「認定医を取る」が達成されたら、「その認定医として現場を動かす」へ。
さらにその先には、「専門外来を立ち上げる」「後輩を育てる」「分院を持つ」など、目的はどんどん変わっていく。

組織が一つの目的に縛られていない。個人も一つの目的に縛られていない。目的そのものが進化し続ける

進化型組織と呼ばれるのは、こういう意味だと私は理解しています。


6. 自分でジャッジする楽しさが、組織を回す

エボリューションパーパスとセットで考えるべきものが、もう一つあります。

それは、自分でジャッジして、自分で仕事をしていく という働き方です。

私は、これが人にとって 一番楽しいこと なのではないかと思っています。

院長に判断してもらうのが楽な場面はあります。でも、ずっとそうしていると、楽しさは消えていきます。自分で考えて、自分で決めて、自分で動かす。そこに楽しさがある。

そして、楽しさを感じている人は、辞めにくい。自走する組織は、結果として人が定着する組織にもなっていく のだと思います。


7. 2:6:2 の上位2割が、組織の速度を決める

最後に、もう一つだけ補足させてください。

組織には 2:6:2 の法則 があると言われています。上位2割が会社を引っ張り、6割は中間、2割は足を引っ張る。

この「上位の2割」をどれだけ増やせるかで、組織の速度が変わってきます。

エボリューションパーパスを持って、自分でジャッジしながら動ける人 — そういう人を、組織の上位2割の中にどう増やしていくか。これは、これからの動物病院経営の大きな宿題だと感じています。


まとめ

  • 規模が20〜30人になると、技術崇拝だけでは人を留められません
  • 「3〜5年で教わることがなくなった」と感じる獣医師は、技術追求の志 を持っています
  • 退職は完全には止められません。それでも、追求できる割合を高くすれば長期で勤めやすくなります
  • 目的を 「一人前 → 認定医 → 認定医として活躍 → ……」 と変化させていくことを、ティール組織は エボリューションパーパス と呼んでいます
  • 自分でジャッジする働き方は、人にとって一番楽しい 状態
  • 上位2割を増やしていく組織が、結果として速く動ける組織になります

FAQ

Q. 認定医取得は、どの病院でもできるわけではないですよね?
A. その通りです。だからこそ、変化する目的を提供できる現場 を持つことが、採用と定着の両面で効いてくると感じています。

Q. 全員にエボリューションパーパスを持ってもらうのは難しいのでは?
A. はい、全員には難しいと思っています。だからこそ 上位2割 にどう増やしていくか、という発想で組織を見るようにしています。

Q. 「自分でジャッジする」と言っても、ミスが心配です。
A. ミスは出ると思います。それでも、判断する経験がないまま育つほうが、長期的には組織にとってリスクが大きい — というのが、最近の私の感覚です。