要点
- やる気のある内定者ほど「入職までに何を準備すればいいですか」と聞いてきます
- 私の答えは、技術や知識ではなく、「理不尽な経験を積んでおいで」 です
- 世の中は、自分から見たら理不尽と思うことだらけ。そこに耐性がないと、社会に出ていきなり折れてしまう
- これを リアリティショック といいます。描いていたイメージと、実際の体験が違う、あの衝撃です
- だから私は、サービス業のアルバイト を勧めます。変な患者さんにクレームをつけられる、あの世界に近いから
- 「もうやってます」という子には、「じゃあ、もっと受けてきて」と言います
1. 「何を準備すればいいですか」への、私の答え
内定を出すと、やる気のある子ほど、こう聞いてきます。
「入職までに、何を知っておけばいいですか。何をトレーニングしておけばいいですか」
意欲は、本当にありがたい。でも、私が返すのは、技術の話でも、勉強のリストでもありません。
私の答えは、こうです。
「理不尽な経験を、積んでおいで」
2. リアリティショックとは
世の中は、自分から見たら、理不尽と思うことばかりです。
いいイメージを持って社会に入ってみたら、実際は、自分が描いていたものとはまるで違う。そういう体験をすることを、リアリティショック というそうです。
獣医師を目指す子は、動物を助けたい、いい医療をしたい、という思いを持って入ってきます。その思いは尊い。でも、現場には、その思いだけでは説明のつかないことが、たくさんあります。
理想と現実のギャップ。これに初めてぶつかったときの衝撃が、リアリティショックです。
3. 技術があっても、耐性がないと折れる
ここが大事なところです。
リアリティショックへの 耐性を持っていない人は、どんなに仕事ができても、どんなに技術があっても、社会に出た瞬間、いきなりショックを受けてしまいます。
技術があるかどうかと、理不尽に耐えられるかどうかは、まったく別の力です。学生時代にどれだけ優秀でも、この耐性がないと、現場で折れてしまうことがある。
だから私は、入職前の準備として、技術より先に、こちらを身につけてほしいと思っています。
4. だから、サービス業のアルバイトを勧める
では、理不尽への耐性は、どこで身につくのか。
私がよく勧めるのは、サービス業のアルバイト です。
理由は単純で、動物病院の現場にいちばん近いからです。たとえば、変な患者さんにクレームをつけられる。理不尽な要求をされる。自分は悪くないのに、頭を下げないといけない。
そういう経験は、教科書では絶対に身につきません。実際に、理不尽の最前線に立ってみるしかない。サービス業のアルバイトは、その練習として、とてもいいのです。
5. 「もうやってます」と言われたら
「サービス業のバイトなら、もうやってます」
そう言う子もいます。それはとてもいい。でも、私はそこで止めません。
「じゃあ、それを、もっと受けてきて」
そして、こう続けます。
「ただ理不尽に耐えるだけじゃなくて、どうしたら、この人にうまく喜んで、最後に帰ってもらえるか。それを考えながらやってみて。そうすると、面白くなってくるよ」
理不尽を、ただ我慢する対象として見るのではなく、どう関係をつくり直すかという課題 として見る。そう捉えられるようになると、同じ場面が、急に面白いものに変わります。
これは、動物病院の現場そのものです。飼い主さんとの関係も、結局はここに行き着く。だから私は、内定者に、技術より先に「理不尽を、もっと受けてきて」と伝えています。
まとめ
- やる気のある内定者ほど「何を準備すれば」と聞いてきます
- 私の答えは、技術ではなく 「理不尽な経験を積んでおいで」
- 理想と現実のギャップが生む衝撃が リアリティショック
- 技術があっても、耐性がないと現場で折れてしまう
- だから サービス業のアルバイト を勧めます
- すでにやっている子には「もっと受けてきて。喜んで帰ってもらう工夫まで考えると面白い」と伝えます
FAQ
Q. 技術の勉強は、しなくていいということですか?
A. してはいけない、という話ではありません。ただ、技術は入職後にいくらでも伸ばせます。一方で、理不尽への耐性は、現場に入ってから身につけようとすると、間に合わずに折れてしまうことがある。だから順番として、こちらを先に、と伝えています。
Q. なぜ「サービス業」なのですか?
A. 動物病院の現場にいちばん近いからです。理不尽な要求やクレームに向き合い、それでも相手に喜んで帰ってもらう。この構造が、飼い主さんとの関係づくりとよく似ています。
Q. 理不尽に耐えるだけだと、ただ消耗しませんか?
A. その通りです。だから私は「耐える」で終わらせず、「どうしたら相手に喜んで帰ってもらえるかを考えながらやってみて」と伝えます。受け身の我慢ではなく、関係をつくり直す課題として捉えると、同じ経験が学びに変わります。
澤村 昌樹 — 沢村獣医科病院 院長
