要点
- 獣医をやっていて、お金の話まではついていける。組織論となると話が違います
- 『ティール組織』では、組織が レッド → アンバー → オレンジ → グリーン → ティール の5段階を辿るとされています
- 動物病院の多くは オレンジ組織で止まっています。管理されすぎた組織は、それ以上のことをやらなくなる
- 「うちのスタッフは言われないと動かない」と嘆く前に、そう思わせているのは経営者自身ではないか を疑う必要があります
- 経営者が直せるのは、個人ではなく組織。組織を変えれば、振る舞いも変わってきます
獣医をやっていて、お金の話まではついていける。だけど経営論、特に組織論となると話が違います。「文系の人って答えがないな」と苦笑したくなることもあります。
それでも私は、組織論をやりたい。
ある偉い先生から「外科医に経営なんかできないでしょ?」と言われたことがありました。でも、その意味が最近、ようやく少し分かってきた気がしています。
病院の現場というのは「木を見る」仕事です。一頭一頭の動物、一人ひとりのスタッフ、一日一日の判断。これに対して、組織論は「森」の話になります。MBAでこういう話をしていると、急に森の方の話を求められる。今、私は森の方の仕事をしようとしているところで、現場の細かな話に引き戻されると、その都度、深く潜りなおさなければならない。
水の中に潜っていくように、思考を掘り下げていく時間が必要です。引き上げられたら、また潜らなくちゃいけない。これが、組織論を考えるときの感覚だと思っています。
レッドからティールへ — 組織がたどる5段階
『ティール組織』という本では、組織がたどる進化の段階を5つに分けて説明しています。
- レッド組織(恐れの組織):もう本当に初期の段階、少ない人数の組織
- アンバー組織(軍隊型ピラミッド):規律ができ始める段階。「右に行け」と言われたらいつも右に行く。号令と規律で動く組織
- オレンジ組織(成果主義):「右」を一番上手にやれる人が利益を得るようになる。すごく管理された状態
- グリーン組織(家族のような組織・権限委譲):自分で考えて仕事をする…はずだが、「権限の委譲」と言っている時点で上下関係が成立してしまう。多数決や会議をしても、なかなか決まらないという現象が起きる、らしい
- ティール組織(進化型組織):自走する組織。自律性・変化する目的・全体性、この3つを基準に意思決定する
ティール組織は、答えのない議論を続けている領域です。GoogleやAppleでも、これを10数年前に取り入れて取り組んでいます。それでも、なかなか答えが見つからないのが現状らしいんです。
だから、動物病院業界が今すぐティール組織に届くわけではありません。それでも、目指す先は決めておきたいと思っています。
オレンジで止まる — 管理されればされるほど、それ以上のことはやらなくなる
私がよく感じるのは、オレンジ組織で止まっている動物病院が多いということです。
院長が「右」と言い続け、スタッフ全員がその通りに動く。「右」を一番上手にやれる人が評価される。一見、組織として整っているように見えます。
でも、その先がない。
管理されすぎた組織は、それ以上のことはやらなくなる。世の中には「右」以上にやって良いこと、取りに行ける新しいチャンスがたくさんあるはずなのに、「右しか行かない」状態で止まってしまう。
そして20人、30人と病院の規模が大きくなったとき、必ずぶつかる壁があります。
技術的にすごく崇拝されている院長でなければ、人は離れていきます。3年から5年勤めると、「もうここで教わることはなくなった」と感じる獣医師が出てきます。これは謙虚な気持ち、ではなく、ちょっと高飛車な感覚かもしれない。それでも、本人にとっては立派な退職理由になります。
「うちのスタッフは言われないと動かない」と嘆く前に
「うちのスタッフは言われないと動かないんですよね」とぼやく経営者は、実はとても多いと思います。
ここで、ちょっと考えてほしいんです。
そう思わせているのは、経営者自身ではないか?
「いつも院長が判断している」という状況下では、スタッフは自然と「自分で判断しない方が安心だ」と学んでいきます。判断したら「勝手なことをするな」と言われるかもしれない。だから黙って従う。
これは恐れの組織、つまりレッド組織を引いている病院でよく見る光景だと思います。それなのに「自分で判断できないんだろう」と文句を言う。経営者が、まず自問内省しないといけないところだと、私は思っています。
人に任せられない経営者には、理由があります。任せようとした瞬間に、心の中で「いや、ダメだ」と反対の声が立ち上がる。これは 心理的免疫 と呼ばれる仕組みらしいんです。
勤務医を雇う。看護師を雇う。人を信頼して仕事をお願いする。ここに踏み込めるかどうか。これが、ティール組織への扉だと思っています。
経営者が直せるのは、個人ではなく組織
何か問題が起きたとき、私はいつもこう考えるようにしています。
「これは個人の問題か、それとも組織の問題か」
そして、もう一つ。
「経営者が直せるのは、どちらか?」
答えは、組織です。
個人を直すことはできない。でも、組織の仕組みなら、経営者が直接手を入れて変えていけます。組織を変えていけば、その結果として個々人の振る舞いも変わってきます。
意思決定をしなきゃいけない場面、トラブルが起きた場面、いつも私は最終的にティール組織を基準に考えるようにしています。自律性と、変化する目的と、全体性。この3つをクリアできているか。それを満たす意思決定を、組織として積み重ねていく。
そうすることで、従業員の幸福度が上がり、生産性が上がる。そういうところに落とし込めるんだな、ということが、最近、なんとなくやっと分かってきた気がしています。
だから、一緒に勉強してくれる人を集めたい
正直に言えば、答えはまだ出ていません。自分の病院でティール組織が完全にできているかと言われれば、まだまだです。少しずつクリアしていくしかない。
だから、一緒に勉強してくれる人を集めたいと思っています。
同じ問題意識を持つ獣医療経営者と、これからの動物病院の組織像を一緒に考えていきたい。それができていったら、おそらくその動物病院は、すごく働きやすい場所になっていくんじゃないかな、と思っています。
これが、ティールベットラボ と名付けた理由です。
FAQ
Q. ティール組織は理想論で、動物病院には早すぎませんか?
A. はい、動物病院業界が今すぐ届くとは思っていません。それでも、目指す先を決めておく ことには意味があると思っています。意思決定の基準が一本あるかないかで、組織の進む方向が変わってきます。
Q. うちは家族経営の小さな病院だから関係ない?
A. 規模が小さいうちはレッドやアンバーで回ります。ただ、人数が増えるとどこかで必ず壁にぶつかります。「右」と言い続けて回せる人数には限界があると、私は感じています。
Q. ティール組織を導入したら、すぐ自走しますか?
A. しません。自律性・変化する目的・全体性 を基準にした意思決定を、何度も組織として積み重ねていく。その先にやっと、自走する組織が見えてくるイメージです。
次回以降、各論として「パーパスとは何か」「幸福ホルモン4種(ドーパミン・エンドルフィン・セロトニン・オキシトシン)」「モチベーション3.0の自律性・熟達度・目的」「成人発達論」「心理的免疫」などを、ひとつずつ掘り下げていきたいと思います。
