要点
- 私がティール組織に行き着くまでには、15年くらいもがいてきました
- 事業承継して「組織」を意識し始めてから、ずっとこの課題が解けませんでした
- 30人規模の頃、自分なりに 「複数の鍋ぶた型組織」 を考え、一度はうまくいったと思いましたが、結局うまくいきませんでした
- MBAで組織論も学びましたが、縦軸・横軸・マトリックス — どれも 「形」 の話で、何をやっても変わらなかった
- 給料を上げる、労働時間を守る、という 「満足度」では差別化にならない と気づきました
- 「幸福とは何か」を追いかけていくうちに、初めて 「ティール組織」 という言葉に出会いました
1. ずっと解けなかった「組織」という課題
私がティール組織という言葉にたどり着くまでには、振り返ると15年くらいかかっています。
自分が事業承継をして、いわゆる「組織」というものを意識し始めてから、私はずっとこの課題を解けずにいました。MBAに行っても、正直、分からなかった。組織のところで、いつも引っかかっていたのです。
「どういう組織にすれば、うまくいくのか」。この問いに、ずっと答えが出せませんでした。
2. 30人で行き詰まった — 「複数の鍋ぶた型」という私のオリジナル
うちが30人くらいの規模になった頃の話です。
私はいろいろ自分で勉強して、当時は「鍋ぶた型組織がいい」と言われているのを学びました。それで、私のMBAの修士論文では、「だったら鍋ぶたを3つにすればいいじゃないか」 という論文を書いたのです。
3人が院長、3人が看護課長、という具合に、いわゆる複数の鍋ぶた型組織のようなものにすればいい。これは、私のオリジナルな発想でした。
ところが、これがうまくいかなかった。
役割の分担が難しかったし、かといって、ずば抜けて優秀な人がいたわけでもない。みんな若かったし、私自身も若かった。二、三十人の中で「幹部」も何もないんじゃないか、と正直、私は思っていました。
責任を持たせるために幹部というポジションを与える。それは一つの方法ではあるのでしょう。でも、実際にそう言われた人がどれだけ動くかというと、なかなか難しい。「幹部にしても、経営者目線で仕事ができていない」とよく聞きますが、私は そもそもそれは無理なんじゃないか と感じていました。
幹部というポジションを作れば人が動くんじゃないか。そう考えて、結局それが動かないと嘆いている。これは、本当によく聞く話だと思います。
3. 経営者自身が成長していないと、組織は動かない
なぜ、そうなるのか。
ここで私が引っかかったのが、成人発達論 という考え方でした。人は大人になってからもずっと成長していく、という前提に立つものです。
ポジションを与えても、その人がまだ「環境に順応しているだけ」の段階だと、自分で考えて責任を持つ — つまり自律性を発揮するところまでは、なかなか届かない。組織の自律性というのは、一人ひとりがその段階を上がっていけるかどうかにかかっている。
そして、これは部下の話だけではありません。経営者である私自身が成長していないと、組織は難しい。 30人で行き詰まったあのとき、私自身も成長していなかったのだと、今では思います。経営者の成長というのは、組織にとって、とても大切なものなのです。
4. 満足度では、差別化にならない
経営者が組織を考えるのは、突き詰めれば、生産性を上げ、利益を上げるためだと思います。
そのために「人を動かす」。でも、人を動かすと言っている時点で、それは報酬で動かすという発想 — いわゆるモチベーション2.0に近いものです。
飼い主さんを満足させることには、私も最初からすごく注意を払ってきました。一方で、従業員を満足させることはどうかというと、給料を同業より少し高めにするくらいで、時間外労働のことは、当時はあまり考えていませんでした。
その後、満足度を上げようとすると、行き着くのは 「ホワイト化」 です。労働時間の上限をきちんと守る、給料もある程度上げる。それは大事なことです。
ただ、満足度では差別化されないし、模倣困難でもない。 ホワイト企業認定を取っている動物病院もありますが、もうそれだけでは差別化にはならないのかなと思っています。
ホワイトであれば、仕事は楽かもしれない。でも、その病院は本当に成長するのか。今いる人たちは、仕事が早く終わって給料をもらえて満足かもしれない。でも、獣医師・看護師としての仕事を全うして、飼い主さんを本当に喜ばせること — 本来、そこにあるのは「幸福」なんじゃないか。そう思うようになりました。
5. 「幸福」を追いかけて、ティール組織に出会った
そこから私は、「幸福とは何だろう」を一時期、追いかけていました。
三大幸福論というものがあって、そのうちの一つがアドラーだと思います。アドラーの幸福論を砕いていくと、「創造的自己」 — 自分らしく仕事をしよう、所得や学歴よりも自己決定度の高さが幸福度を上げる、という話が出てきます。原因論ではなく目的論で考えたほうがいい、とも言われます。
そうやってフラットな組織や心理的安全性を調べていくうちに、私のなかに 初めて「ティール組織」という言葉が出てきた のです。「あ、なるほど、こういう組織化か」と。
そこから詳しく調べていくと、いろいろなものがつながってきました。モチベーション3.0で言われる自律性・熟達・目的。自己決定論。「心身のコンディションがあって、その上に働きやすさがあって、さらにその上に働きがいがある」という、個人が活性化していくための積み重ね。
これらが、ティール組織の掲げる 自律性・全体性・目的の共有、そして 進化する目的 に、全部つながってきたのです。
もっとも、私が「幸福にしたほうがいい」と気づけたのも、本当にここ数年のことです。これが本当に合っているのかは、まだ分かりません。10年後くらいに振り返って、ようやく「あれはまともだったね」と分かるのかもしれない。それでも私は、これを追求していきたいし、同じ方向を向く仲間を増やせたらいいと思っています。
まとめ
- ティール組織にたどり着くまで、私は 15年くらい もがいてきました
- 30人規模の頃、「複数の鍋ぶた型組織」 という自分のオリジナルを試して、うまくいきませんでした
- MBAの組織論も、縦軸・横軸・マトリックス — 「形」 の話で、何も変わらなかった
- 部下だけでなく、経営者である自分自身の成長 が組織には要る、と気づきました
- 「満足度(ホワイト化)」では差別化にならない という壁にぶつかりました
- 「幸福とは何か」を追ううちに、ティール組織 という言葉に出会いました
FAQ
Q. なぜ、そんなに長い時間がかかったのですか?
A. 相談できる相手がなかなかいなかったのが大きいと思います。先輩の先生方に話しても、世代的に理解されにくく、自分で勉強するしかありませんでした。MBAで組織論も学びましたが、当時の組織論は「形」の話が中心で、今私が考えているようなことは論じられていなかった。だから、自分なりに遠回りをするしかなかったのです。
Q. 「複数の鍋ぶた型」は、なぜうまくいかなかったのですか?
A. ポジションを作っても、その人や私自身が、まだそこに見合うところまで成長していなかったからだと思っています。形(幹部を作る)だけ整えても、中身が伴わなければ動かない。これは、後でお話しする「組織は形ではない」という気づきにつながっていきます。
Q. 満足度を上げること自体は、悪いことなのですか?
A. 悪いことではありません。労働時間を守る、給料を上げる、というのは大事な土台です。ただ、それだけでは差別化にならないし、病院としての成長や、働く人の「幸福」には届かない。満足度は出発点であって、ゴールではない、という捉え方をしています。
澤村 昌樹 — 沢村獣医科病院 院長
