要点
- 私が組織論にたどり着いた道は、実は 幸福学 からでした。幸福とは何かを追求したら、ティール組織と同じことを言っていた
- その中で出会ったのが 個人活性化ピラミッド。心身のコンディション → 働きやすさ → 働きがい の3層です
- 土台のない組織で「働きがい」だけを求めても、難しい
- 高度な医療を学びに行った研修医が辞める理由は、技術ではなく 土台の部分 にあることが多い
- 技術を伸ばしたい人ほど、実は そのベースとなる組織 が必要になる
- だから、うちの病院ではステップアップを支えたいと考えている
1. 私はもともと、幸福学から入った
最近あらためて思い出したことがあります。私がティール組織にたどり着くまでには、いろいろな本を読んできたプロセスがありました。それらが自分の中でごちゃごちゃになっているのですが、整理すると、実は入り口は 幸福学 だったんです。
自分でまとめた資料も、最終的には「幸福学」という題名になっていました。アドラー心理学的な話もそこに混ざっています。
幸福を追求していくと、「幸福とは何か」という要素がいくつか出てくる。そしてそれが、結局ティール組織が言っていることと一緒だったんです。だから私は、幸福学を突き詰めた先で、ティール組織に行き着いたのだと思っています。
2. 個人活性化ピラミッド
その中で出会った考え方が、個人活性化ピラミッド です。
下から順に、こうなっています。
- 心身のコンディション — 心と体が健康であること
- 働きやすさ — 環境が整っていること
- 働きがい — その先にある、仕事の充実
ここで大事なのは、順番です。ピラミッドですから、下が土台になります。
つまり、心身のコンディションと働きやすさがない組織で、働きがいだけを求めても難しい、ということなんです。
「うちのスタッフは働きがいを持ってくれない」「もっとやりがいを感じてほしい」。そう言う前に、その下の2層はどうなっているか。そこを見る必要があると思っています。
3. 研修医が辞める、本当の理由
具体的な例を挙げます。よく聞く話です。
大学病院に勤めた、何々共同施設に勤めた、研修医をやりました——。高度な医療を学ぶために、我慢して1年、2年と学ぶ。研修医ですから、それ自体は良いことです。
ところが、研修医がよく退職する原因 として挙がるのは、何々先生と合わない、といった話なんですね。技術が身につかなかったからではないんです。
なぜそうなるか。その組織が、働きやすさや心身のコンディションを考えられていない からだと思います。もっと言えば、そもそも大学はそこを目的としていない。高度な医療を提供し、研究する場所であって、働きやすさを整えることが第一目的ではない。だから、そこが抜け落ちてしまう。
土台が崩れたまま「働きがい」だけを積もうとすると、こういうことが起きるのだと思います。
4. 技術を伸ばしたい人ほど、土台が要る
ここが、私が一番伝えたいところです。
たとえば、1.5次診療、2次診療を目指すような、技術を伸ばしたいと考えている先生たち。そういう人ほど、そのベースとなる組織が必要になるんです。
集中して症例に向き合える。そのための症例数がある。設備がある。環境がある。そして、心身のコンディションと働きやすさが担保されている。その土台があってはじめて、技術の追求という「働きがい」に集中できる。
「働きやすさ」と「技術の追求」は、対立するものではありません。むしろ、前者が後者を支えている。私はそう考えています。
5. 中途で移るときの、不安
もう一つ、中途で移ろうとする方について思うことがあります。
今の現場でそれなりのポジションがある。でも、別の病院に移ったら、そのポジションを維持できないかもしれない。きっと、そう考えると思うんです。
これは自然な不安だと思います。実際、多くの場合は今より大きな組織に移ることになるので、最初は同じポジションではないかもしれない。それは、ある意味しょうがない部分です。
ただ、うちの病院で伝えたいのは、そこではありません。ステップアップ です。
「あなたのステップアップをサポートします」。それが、開業という道かもしれないし、よりレベルの高い医療を身につけることかもしれない。ポジションを守ることではなく、その先に進むことを一緒に考える。実際、うちに来てくれた先生たちの話にも、その要素は入っていると思います。
6. ティール組織に取り組む動物病院は、まだ少ないようです
動物病院の業界で、ティール組織に真剣に取り組んでいる病院 は、おそらくまだほとんどありません。勉強会で話しても、初めて聞くという方がほとんどです。
だからこそ、これはもっとアピールしていいことなのかなと思っています。
働く環境や組織のあり方に不満を持っている方には、その部分が響くかもしれません。一方で、自己実現を目指すタイプの先生には、そこはあまり刺さらないかもしれない。でも、個人活性化ピラミッドで考えれば、その人にも刺さるはず なんです。
自己実現をするために、何が必要か。その土台を考えたときに、働きやすさがあり、心身のコンディションがある。だから自己実現に集中できる。土台の話は、環境を重視する人にも、自己実現を目指す人にも、どちらにも効いてくる話 だと思っています。
まとめ
- 私は 幸福学 を追求した先で、ティール組織にたどり着いた
- 個人活性化ピラミッド = 心身のコンディション → 働きやすさ → 働きがい
- 土台のない組織で「働きがい」だけを求めても難しい
- 研修医が辞める理由は技術ではなく、土台が整っていない ことが多い
- 技術を伸ばしたい人ほど、集中できるベースとなる組織 が必要
- 伝えたいのはポジションではなく、ステップアップの支援
FAQ
Q. 「働きやすさ」を整えると、ぬるい組織になりませんか?
A. ならないと思っています。個人活性化ピラミッドで言えば、働きやすさは頂点ではなく土台です。土台を整えるのは、その上に働きがいを積むためです。むしろ、土台がないまま働きがいだけを求めるほうが、人は続かない。以前書いた「心理的安全性はぬるい組織ではない」という話とも、つながっていると思います。
Q. 高度医療を学びたい若手には、どう伝えればいいですか?
A. 「学べる環境がある」だけでは足りないと思っています。症例数、設備、そして集中できる組織。この3つがそろって初めて、学びに向き合えます。研修医が辞める理由の多くが人間関係や環境であることを考えると、技術の話と同じくらい、土台の話を伝える必要があると感じています。
Q. 中途で移ると、ポジションが下がるのでは?
A. 正直に言えば、最初は同じポジションでない場合もあります。ただ、うちの病院で考えているのは、ポジションの維持よりも、その先のステップアップです。より高度な医療を身につけるのか、いずれ開業するのか。目指す方向に合わせて、そこへ行くまでを支えたいと考えています。
澤村 昌樹 — 沢村獣医科病院 院長
