要点

  • ティール組織の三本柱のうち、「変化する目的」は、私にとっていちばん腑に落ちていない部分でした
  • 振り返ると、分院の土地探しのように、病院の目的そのものが状況に合わせて変わってきました
  • 本では、自転車の乗り方を例に、「予測して制御する」より「感じ取って応答する」ことが語られているそうです
  • 私はそれを、PDCAよりも OODAループ に近い考え方として受け取っています
  • 現場で判断するには個人の力が要ります。そこを補うのが 助言プロセス なのではないか、と考えています
  • 遠い目的は要る。ただ、細かいところは決めすぎない方がいいのかもしれない。まだ整理の途中です

1. 三本柱の中で、いちばん分からなかったもの

ティール組織が大事にしているものは三つあります。自律性、全体性、そして変化する目的です。「進化する目的」「発展する目的」と言われることもあります。

正直に書くと、この三つ目が、私にはずっとよく分かっていませんでした。

目的というと、目的の共有、パーパスドリブン、経営の方向性。そういったものと一緒くたにされがちです。でも、ティール組織が言っているのは、実はちょっと違うことなのではないか。深掘りすると、思っていたより深いのかもしれない、という気がしています。

本の中には、組織の目的について話し合うときに「椅子をひとつ空けておく」という話が出てきます。目的のための席を空けておく、と。読んだときは、なんなんだそれは、と思いました。ちょっと抽象的で、どういうことだったかな、と今も考えているところです。

この記事は、その「よく分からない」を、いま分かっている範囲で書いてみたものです。もう少し勉強したら、また違うことを言い始めるかもしれません。それくらいの前提で読んでいただければと思います。


2. 分院の土地は、考えてもいなかった場所にあった

先に、うちの病院の話をさせてください。

最初の分院ができたのは2017年、10年ほど前のことです。

当時の病院は、とにかく人が集まっていて、手が足りない状態でした。診察室は朝から晩までフル回転。手術室は一つか二つありましたが、手術を主に担っていたのは私で、午前中に診察をして、午後はずっと手術室に入っている。道を挟んだ向かいに45坪ほどのテナントを借りて、猫の診察室や統合医療もやっていました。

場所的にどうにもならなくなって、分院をつくろう、という話になりました。すぐ隣につくる手もありましたが、それはあまり効果的ではないだろう、と。

そこで、もっと近い、車で20分圏内のところで探しました。ところが、土地がない。テナントもない。どうしようかと思っていたときに、ある不動産屋さんの門を叩いたら、ちょうど土地が入ったばかりだと言われました。まったく考えてもいなかった場所でしたが、2車線の大きな道沿い。じゃあ、そこにしよう、と決めました。

開いてからも、変化は続きました。CTが入り、高度な医療を始める。そうすると今度は、最初に考えていた展開の場所も考え直さなければいけない。いろいろなことがどんどん変わって、そのたびに新しい目的が生まれてくる。

ここ最近、グループの病院が増えているのも、できるだけ多くの方に、いまの医療を届けられたらいい、という思いからです。これも、発展する目的なのではないかと考えています。

振り返ってみると、これは変化する目的、発展する目的によく似ているな、と思うんです。本来は組織の話ですが、自分自身の心の中の変化に合わせて対応していくことが、大切なのだと思います。

ただ、これはあくまで経営者個人の目的の変化です。それを組織にどう落とし込むか。そこで、ティール組織の考え方が手がかりになるのではないか、と思っています。


3. 自転車は、計算しても乗れない

本の中で、変化する目的の説明に自転車の乗り方が出てきます。

自転車に乗れるようになろうとするとき、右足の角度がこうで、何秒に一回転すると、この加速度で、まっすぐ進む——と設計しながら乗る人はいません。とりあえず乗ってみる。それがいちばん乗れるようになる方法です。

本では、いろいろなことを予測して制御するのではなく、感じ取って、それに応答することが大事だ、と書かれているそうです。

反対のやり方もあると思います。一回転んだら、転んだ理由を徹底的に考える。角度の計算式を出して、失敗率を出して。ただ、変化が速いと、そうやって「これでいこう」と決めたときには、もう状況が一つ先に進んでいる。

一方で、自転車の練習をするのに、いきなり高速道路や坂道は選びません。公園で練習しますよね。大事故は起こさないようにする。そのうえで、どんどんやってみる。

この話がずっと面白いと思っていたのですが、うまく言葉にできませんでした。そこで出会ったのが、エフェクチュエーションです。インド出身の研究者、サラス・サラスバシーが提唱した考え方だそうです。

いくつかの原則があって、その一つが「手の中の鳥」。飛んでいる鳥を撃ち落とそうとするのではなく、手の中にいる鳥を使って何かを始める。いま持っているもので、とにかくやってみる、という考え方です。

開業を考えるとき、勤めている病院で診察しているイメージのままだと、あの機械がないとできない、と考えてしまうことがあるようです。そうすると、初期投資がすごく膨らむ。

私が知っている、成功している先生方も、最初はやっぱり何もありませんでした。私も何もなかった。何もなかったときに、あるものでどう考えて、どこに到達していくか。それがまさに、変化する目的、発展する目的なのかな、と思っています。


4. PDCAではなく、OODAループ

本を読み直していて、変化する目的というのは、目的の中身というより、物事の進め方のことを言っているのかもしれない、と思うようになりました。

そこで最近思ったのが、PDCAはティール組織には合わないのではないか、ということです。

PDCAは、計画を立て、やってみて、チェックして評価する。これに対して OODAループ は、

  1. 観察する(Observe)
  2. 状況を理解する(Orient)
  3. 意思決定する(Decide)
  4. 行動する(Act)

という順番です。

OODAループは、確か軍隊、アメリカの軍隊から生まれた考え方だったと記憶しています。計画を立ててから出発していたのでは遅い。計画を立てる前に、まず観察する。状況を理解するというのは、なぜその問題が起きているのか、背景や本質を考えることです。そのうえで意思決定し、行動する。

VUCAという言葉も、同じ流れで聞いたように思います。混沌として、環境がどんどん変わる時代には、現場で判断していかないと間に合わない。情報が上がってきて、中枢で命令を出したときには、もう状況が変わっている。だからOODAループを、という話だったと思います。

「PDCAをぐるぐる回せ」と言われることに、私はずっと違和感がありました。その正体は、これだったのかな、と思っています。

PDCAが悪いと言いたいわけではありません。工場のように、ものを作る、繰り返しの作業には合うのかもしれない。ただ、計画を立てているうちに、時代のニーズが変わってしまう場面もあります。

そして、OODAループを現場に取り入れるのは、ピラミッド型の組織ではなかなか難しいでしょうし、成果主義の組織でも難しいのかもしれません。現場で状況を判断して動く、というのは、ティール組織の考え方とよく合うのではないかと考えています。逆に、家族のようにみんなで話し合って計画を立てるグリーン組織には、PDCAの方が合っているのかもしれない、とも思います。


5. 「その人次第では?」に、助言プロセスで答える

この話をしていたとき、「その場で判断するのは、結局その人の能力に左右されませんか」と聞かれました。その通りだと思います。

そこで効いてくるのが、助言プロセスです。

目の前の問題を、自分の問題として受け止める。そのうえで、ここは自分でできる、ここは自分ではできない、と考える。できないことがあるなら、できないという謙虚な気持ちになって、できる人の意見を聞いて取り組む。そうやって共同体をつくりながら、物事の解決に進めていく。それが助言プロセスなのだと理解しています。

これと対照的なのが、報連相(報告・連絡・相談)かもしれません。何か異常が起きたら、報告して、連絡して、相談して、上の人の回答を待つ。意思決定は上の人がする。その間に、右にいたものが左に動いているのに、「右に曲がって」と言ってしまうかもしれない。PDCAと報連相の組み合わせは、そういうことが起きやすいのではないか、と今は感じています。

以前読んだ本に、こんな話がありました。成績の振るわなかった潜水艦のチームで、新しく来たリーダーが「ここまでは自分たちで考えなさい」と権限を渡した。すると返ってきたのは、「では、何をしたらいいんですか」という言葉だったそうです。それまで上からの命令だけで動いてきたからで、乗組員が悪いわけではない。そこから「どうする?」と問いかけて進めさせていくうちに、自分で考えて行動するようになり、いろいろなことが速く解決できるようになった、という話です。

テンションの仕組みとも、深くつながっている考え方だと思います。ただ、これがやっぱり難しい。「なかなか言えませんよ」という声は、実際にあります。組織が完璧にこれを回せるようになるのは、ハードルが高いのかもしれません。

だからこそ、組織がどこに向かっているのかという目的は、しっかりしておきたいと思っています。そのうえで、ティール組織で言われるような判断がうまくできなかったとしても、「こういうふうに判断していたら、もっと良かったかもね」ということを繰り返していくしかないのかな、と考えています。


6. 遠い目的は要る。細かいところは決めすぎない

では、目的は決めなくていいのか。そういうわけでもないと思っています。

「マーケティング近視眼」と呼ばれる話に、鉄道会社の例があります。確かアメリカの鉄道会社の話で、自分たちの仕事を「鉄道を走らせること」だと考えていた。でも、目的が人やものを運ぶことだったなら、飛行機という選択肢もあったはずです。近くのことだけを考えて鉄道に固執してしまう。近くしか見ていない状態、ということなのだと思います。

動物病院に置き換えると、「動物病院をやっているんだから、それでいいでしょう」となるのか。それとも、目的が「地域の動物と人の生活を豊かにすること」なのだとしたら、分院をつくることもあり得る、となるのか。存在目的がバラバラだと、組織の中でこの議論は噛み合わないのだと思います。

ティール組織の本には、オレンジ組織(達成型組織)のマーケティングとの違いも書かれています。オレンジ組織では、顧客を調査して、セグメントに分けて、提供する商品やサービスを決める。外から内へ、です。一方、ティール組織では、何を提供するかは存在目的によって定まる。内から外へ、なのだそうです。

本にはもう一つ、未来を予測してコントロールしようとするのは無駄で、予測が要るのは具体的な判断をしなければならないときに限られる、という趣旨のことも書かれています。なるほどな、と思いました。あまり決めるなよ、ということなのかもしれません。

これを読んで思い出したのが、昔聞いた、あるホテルの結婚式場の話です。空席の多かった結婚式場で、何かやろうと話していたときに、若いスタッフが、モナコで式を挙げて旅行もするパッケージを、ものすごく高額で売り出しましょう、と提案した。そんなの出るわけないじゃないか、と。結局その商品自体は一つも売れなかったそうですが、結婚式の数は30倍になった、と聞きました。うろ覚えなので細部は違うかもしれません。ただ、現場の自由な発想を止めないことで、いろいろな生産性が上がる。そういうことも言っているのかな、と思いました。

ここまでを、今の私なりにまとめると、こうなります。

動物と人の生活を豊かにしよう、といった遠い目的は必要。でも、もっと細かいところは決めない方がいいのではないか。

集団としての存在目的は決める。けれど、発展する目的のほうは、決めてはいけない。いまの私の理解ではそうなります。深掘りしなければいけないのは、たぶんそこなのだと思っています。

話をしている中で、AIの使い方にたとえた例も出ました。新宿にいて「4時の新幹線に乗る方法を調べて」と頼むのではなく、「最短で大阪に行く方法を調べて」と頼む。ゴールを伝えれば、別のルートや飛行機という選択肢も出てくる。手前のことだけを指示すると、かえって効率の悪い方法を自分で選んでしまう。結局、目的は何か、なんですよね。


7. 「宗教じみている」と言われること

私が尊敬している先生に、ティール組織についてよく議論する方がいます。博士号を持ち、臨床もばりばりやっていて、MBAでも勉強された方です。その先生は、ティール組織を「宗教じみている」と表現していました。動物医療にはティール組織は向かないと思っていた、とも。

その感覚も分かります。本には、ミーティングの前に瞑想をしましょう、といった話が出てきますし、組織にはそれ自体の魂と目的がある、とも書かれています。「魂」と言った時点で、嫌になる人もいるでしょう。アドラー心理学と似ていると感じる部分もあります。

ファミリービジネスの話でよく言われるのが、社長が、自分で育ててきた会社を自分の体の一部のように思ってしまうことです。それが良い時もある。でも、ある事業のために建てた会社が、時代に合わなくなったときに、なかなか切り離せない。その事業で自分も成長して、家族も養ってきたのだから、捨てられないですよね。極端に言えば、鉄のバケツで儲けた会社が、日常でバケツが使われなくなっても、鉄のバケツにこだわり続けるようなものです。経営者の魂が、会社に入り込んでしまっている、と言えるのかもしれません。

本には、組織がどこに行きたいのかに耳を傾けて、無理に方向を決めようとしないよう気をつける、という趣旨のことが書かれています。最初に書いた「空いている椅子」は、たぶんこのことなのだと思います。

いろいろな会社や組織がまとまりにくいのは、結局、マインドやハートのところが難しいからではないかと思っています。ティール組織がそれをできるのかどうかは、また別の話です。でも、そこに初めて目を向けた組織の形なのかな、と私は受け取っています。


8. まだ、整理の途中です

正直なところ、この部分は本を読んでも分かりにくいところです。翻訳の難しさもあるのかもしれませんし、心理学のことが分かっていないと理解しにくいのかもしれません。

経営に正解はない、というのが私の基本的な考え方です。目的の話も、たぶん同じなのだと思います。

次回のTeal Vet Labの勉強会では、この「変化する目的」をもう少し深掘りしてみるつもりです。一度読んで、さらっと納得してしまっていたのではないか、と自分でも思っているので。勉強を深めたら、この記事とは違うことを言い始めるかもしれません。そのときは、また改めてお伝えできればと思います。


まとめ

  • 「変化する目的」は、ティール組織の三本柱の中で、私にとっていちばん腑に落ちていない部分だった
  • 分院の土地探しのように、病院の目的は状況に合わせて変わってきた
  • 自転車は計算しても乗れない。予測して制御するより、感じ取って応答する(本の記述より)
  • 物事の進め方としては、PDCAより OODAループ が合う場面があるのではないか
  • 個人の力に左右される部分は、助言プロセスで補う。報連相とは向きが違う
  • 遠い目的は要る。細かいところは決めすぎない。 ただし、まだ整理の途中

FAQ

Q. 「変化する目的」と「存在目的」は、同じものですか?
A. 正直なところ、私もまだ整理できていません。いまの理解では、組織が何のために存在しているのかという遠い目的は決めておく。そのうえで、そこに向かう途中の細かな目的は決めすぎず、状況を感じ取りながら変えていく。そういう関係なのではないかと考えています。次回の勉強会で深掘りしたいと思っているところです。

Q. PDCAはもう使わない方がいいのでしょうか?
A. そうは思っていません。工場のように、繰り返しの作業を改善していく場面には合うのかもしれません。状況がどんどん変わる現場で判断するときには、OODAループの考え方の方が合う場面がある、と私は感じている。それくらいの話です。

Q. 現場に判断を任せると、経験の浅いスタッフが困りませんか?
A. 困ることはあると思います。上からの指示だけで動いてきた人が、急に自分で判断できるわけではありません。だからこそ、自分でできないことは、できる人に意見を聞く。助言プロセスが要るのはそこなのだと考えています。うまくいかなかったときに「こうしたら、もっと良かったかもね」と振り返ることを、繰り返していくしかないのかな、と思っています。


澤村 昌樹 — 沢村獣医科病院 院長