要点
- 関係性の悪化によるマイナスの退職は、うちの病院ではなくなっています。それでも、対人関係のトラブルや、辞めていく人がいなくなるわけではありません
- 院長室に来る相談に向き合うとき、私が使っているのは、MBAで学んだ 「それはファクトか、オピニオンか」 という問いです
- 誰かのふるまいについての相談。そう感じているのは分かる。そのうえで、「なんで?」と相手に聞いてみたかを、尋ねてみます
- 「ティール組織になっていない」と言う人も、その組織の一人です。ただし、本当にパワハラの可能性もあるので、決めつけはしません
- 私の場合は、かなり早い段階で当事者の二人を呼んで話します
- 「なぜティール組織なのか」と目の前のトラブルを行ったり来たりする。それでも、組織がその人にしてあげられることには限界がある、と考えています
1. 辞めていく人が、いなくなったわけではない
うちの病院では、関係性の悪化によるマイナスの退職はなくなっている、という話をこれまでしてきました。これは一つの病院の、限られた期間の話です。
ただ、実際には、辞めていく人もいます。
組織は生き物です。人の心が、いろいろなところで動く。対人関係のトラブルも起こります。
そういうとき、最近の私は、ティール組織の話をしています。
ティール組織の三本柱は、自律性、全体性、そして目的です。その中で、いちばん考えなければいけないのは全体性だと思っています。でも、それはそもそも、一人ひとりが、一人ひとりのことをどう感じるか、ということなのかな、と思うんです。
2. ファクトなのか、オピニオンなのか
その「感じる」ということについて、経営学でよく出てくる考え方があります。マーケティングでも出てきます。
いま起きている事象が、ファクトなのか、オピニオンなのかを考えましょう。
これは、MBAに入って経営学を勉強してよかったな、と思うことの一つです。ティール組織だけを勉強していたら、なかなか出てこなかったと思います。
以前、院長室にやってくる「キーマン」の話を書いたときにも、この言葉に少し触れました。あのときは、経営者が偏った情報に振り回されないための話でした。今回は、相談に来た本人と向き合うときの話です。
組織は、一人ひとりの心の中で動いています。心の中で爆発的なエネルギーが出たときに、それを脳のほうで、理性としてコントロールできるかどうか。対人関係のトラブルは、実はその人個人の中で起きていることなのではないか、と私は考えています。
なぜこんなことを書くかというと、院長室で、こういう相談を受けることがあるからです。
3. 「なんで?」と、相手に聞いてみた?
院長室に来る相談には、ほかの誰かのふるまいについてのものがあります。人として、社会一般として、それはどうなのか、という話です。
正直に言うと、そういう話をしている時点で、ティール組織のことはまだ理解されていないのかな、と感じます。
では、そういうとき、どう対応したらいいか。私が考えるのが、「それってファクトなの? オピニオンなの?」ということです。
オピニオンなのは分かります。あなたの意見ですから。でも、相手のそのふるまいが、本当にファクトかどうかは、分からないですよね。そう感じているだけかもしれない。
そこで、聞いてみます。
「じゃあ、相手に『なんで?』って聞いてみた?」
返ってくるのは、そんなこと言えない、という声です。
でも、ティール組織の全体性の中で考えても、まずは「なんで?」というところからアプローチしていくことが要るのではないか、と私は思っています。
4. 「ティール組織になっていない」と言われたとき
「院長はティール組織と言っているけれど、なっていない」という声を聞くこともあります。
そういうとき、私は、「それは、あなたもなっていないよね」と思うんです。
組織は、結局、一人ひとりの集まりです。ティール組織になっていない、という状況は、そう言っている本人の問題にもなっている。
ただ、気をつけなければいけないことがあります。それが本当にパワハラである可能性も、あるわけです。 だから、決めつけて「それはあなたのオピニオンですよね」とは、言えないと思っています。
5. 早い段階で、二人を呼ぶ
ティール組織の本にも、個々のトラブルにどう対応するか、ということが書かれています。当たり前の話ですが、まずは、トラブルになっている当事者同士で話をする。
私の場合は、それをかなり早い段階でやってしまいます。誰と誰がうまくいっていないらしい、と耳に入ったら、二人を呼んで、「なんか、そういう噂を聞いているんだけど、どうなの?」と聞いてしまう。
そこで私が話すのは、うちの病院がティール組織を目指している、ということです。関係性のこと。そして、目的はどんどん変化していっていると思うけれど、その目的を理解して、ついてこられているかどうか。
自律性の話になることもあります。獣医師の多くは、自律性ということに関しては、進められていることが多いと感じています。経験の少ない獣医師でも、自律性を進めていこうという気持ちは持っている。
ただ、その先の、自分の役割に対して自律性を持てているかどうかになると、できている人と、できていない人がいる。そこには、経験も要るのだと思います。
6. 解決できない状況をつくっているのは、自分かもしれない
そもそも、個々のトラブルが起きたときに、それが解決できない状況をつくっているのは、自分自身なのかもしれません。
成人発達論という言葉がよく出てきますが、自己の成長が、まだそこまでできていないのではないか。これは、相談に来る人だけの話ではありません。私自身にも、そういうところがあります。
だから、トラブルがあったときも、院長の意見として話すのではなく、ティール組織がこういう方向に向かっている、という話として伝えるようにしています。目的の共有ができていない、といった話も含めてです。
7. 「なぜティール組織なのか」に、何度でも戻る
結局、元に戻ると、なぜティール組織なのか。それは、みんなが幸福になるから、です。
分かっている、と言うと言い過ぎかもしれませんが、多くの幸福論で言われていることがあります。自律性、関係性。それから、自分には能力がある、と認められているという感覚や、貢献感。こうしたものと、ティール組織が掲げる三つが、非常に近い。このことは、以前の記事「自己決定理論とティール組織」でも書きました。
だから、ティール組織に向かっていくことで、一人ひとりが幸福を得られる。幸福感の高い人は、生産性が高い。組織でも、幸福感の高いところは離職が少ない。そういうことが言われているから、ティール組織に向かっているのであって——。
この話と、目の前のトラブルの話とを、いつも行ったり来たりすることが、大事なのだと思っています。
8. 組織にできることには、限界がある
辞めたい、という人がいたとき、その人に問題があるのか、組織に問題があるのか——「問題」という言い方は違うかもしれませんが——私はいつも、組織のことを考えます。
ただ、組織がその人にどこまでしてあげられるか、を考えると、やっぱり限界があります。すべてに応えるのは難しい。
その人にある役割や、その人に期待した仕事がうまくできないのであれば、ここを職場として考えないほうが、その人にとっては幸せなのかもしれない。そう考えることもあります。
こうしたことを、話をするときの基準にしておく。ティール組織で組織を運営していくうえで、経営者としても、それは大事なことなのではないかと思っています。
経営に正解はない、というのが私の基本的な考え方です。ここに書いたのも、いま私がやっていることにすぎません。対人関係の相談に、これが正しい答えだと言うつもりはありません。同じように院長室で相談を受けている方の、何かの参考になればと思います。
まとめ
- 関係性の悪化によるマイナスの退職はなくなった。それでも、対人関係のトラブルや退職はなくならない
- 全体性とは、一人ひとりが、一人ひとりのことをどう感じるか、なのかもしれない
- 相談には、MBAで学んだ 「ファクトか、オピニオンか」 という問いで向き合う
- 「なんで?」と相手に聞いてみたかを尋ねる。ただし、パワハラの可能性もあるので決めつけない
- 私の場合は、早い段階で当事者の二人を呼んで話す
- 「なぜティール組織か」とトラブルの話を行ったり来たりする。それでも、組織にできることには限界がある
FAQ
Q. 「ファクトかオピニオンか」という考え方は、ティール組織の本に出てくるのですか?
A. 私が学んだのは、ティール組織の本からではなく、MBAで経営学を勉強していたときです。経営学やマーケティングでよく出てくる考え方です。ティール組織だけを勉強していたら、なかなか出てこなかったと思います。ただ、全体性を考えるときに、役に立つ問いだと感じています。
Q. 「それはオピニオンですよね」と返すと、相談した人を突き放すことになりませんか?
A. そうなる可能性はあると思います。だから、決めつけてそう言うことはしません。本当にパワハラが起きている可能性もあるからです。私の場合は、「相手に『なんで?』って聞いてみた?」と尋ねてみたり、早い段階で当事者の二人を呼んで話したりしています。それがどの病院にも合うやり方かどうかは、分かりません。
Q. 辞めたいという人に、組織はどこまで向き合えばいいのでしょうか?
A. 正直なところ、答えは持っていません。私はいつも、組織のことを考えます。ただ、組織がその人にしてあげられることには限界がある、とも思っています。役割や期待された仕事がうまくできないのであれば、ここを職場として考えないほうが、その人にとって幸せなのかもしれない。そう考えることもあります。
澤村 昌樹 — 沢村獣医科病院 院長
