要点
- ティール組織を醸成するには、それを動かす OS(仕組み) が要ります
- うちのOSは、週1回のタクティカルミーティング と 月1回のガバナンスミーティング の2つ
- スプレッドシートに テンション(違和感・アイデア・課題) を自由に投稿し、解決・チェック・保留 に振り分けます
- テンションは院長も出す。ただし「院長テンションです」と言って、公平に判断してもらう
- 警察からの動物受け入れ、獣医師の残業、グローブのコスト——実際のテンションは、こういう生々しいものです
- テンションを上げ続けるOSが、自走する組織 をつくっていく
1. ティール組織には「OS」が要る
ティール組織を醸成していくには、それを動かすためのOS——いわば基本ソフトのようなものが必要だと思っています。理念だけでは組織は動きません。日々の違和感やアイデアを、どうやって拾い、どうやってさばくか。その仕組みがOSです。
うちの病院のOSは、2つのミーティングでできています。週1回のタクティカルミーティング と、月1回のガバナンスミーティング です。
2. テンションとは何か
まず「テンション」という言葉を説明します。テンションとは、違和感・気になったこと・こういうことをやりたい・こういうアイデアがある、といったものすべてです。不満だけではありません。前向きな提案も、全部テンションです。
うちでは、Googleのスプレッドシートを用意していて、そこに誰でも自由にテンションを投稿できるようになっています。各部門ごとに分かれていて、他の部門のテンションも見られる。どんどん投稿されていきます。
3. タクティカルミーティング(週1・各部門・約30分)
タクティカルミーティングは、週に1回、各部門で約30分。スプレッドシートに挙がったテンションを見ながら、話し合う必要があるものを話し合っていきます。
さばき方は、大きく3つです。
- 解決:話している間に解決してしまった、対応が決まった
- チェック:出した人の勘違いで、実は問題がなかった。話し合いが不要なもの
- 保留:すぐには決められない、他の部署と相談しなければいけないもの
こうやって、一つずつ判断していきます。「チェック」というのは、放置ではなく「これは話し合わなくて大丈夫」と全員で確認したという意味です。
4. ガバナンスミーティング(月1・各部門代表)
月に1回、ガバナンスミーティングを開きます。これは、各部門から代表が2名くらい集まって行うミーティングです。
ここでは、タクティカルミーティングで解決できなかったこと(保留になったもの) を持ち寄って議論します。部門をまたぐ話や、その部門だけでは決められない話を、ここで決めていく。タクティカルとガバナンス、この2階建てで組織を回しています。
5. 院長も、テンションを出す
ここが大事なところです。テンションは、院長である私も結構出します。むしろ、違和感を一番感じられるのは院長だったりするので、私からどんどん出していきます。
ただし、気をつけていることがあります。院長がそのまま「こうしなさい」と言ってしまうと、それはレッド組織になってしまう。だから私は、「これは院長テンションです」と言って、あくまで一つのテンションとして出すようにしています。そうすると、公平に、みんなで判断してもらえる。
もちろん、緊急スイッチが必要な場面もあります。これはティール組織の本にも書いてあることで、「待っていられない」「一気に変えなければいけない」というときは、経営者判断で進めることもある。でも、その場合も「こういう理由でこう進めました。承認をお願いします」と説明して、タクティカルやガバナンスで揉んでもらう。納得がいかなければ説明するし、「そういうことだったのか、ならやめてもよかったね」と、こちらが引くこともあります。
ティール組織は、院長が何も言ってはいけない組織ではありません。むしろ、感覚的には8割方、院長が先に口火を切ることも多い。「どんどん発言していいんだよ」というところを、勘違いしないほうがいいと思っています。
6. 実際のテンションは、生々しい
きれいごとに聞こえるかもしれないので、実際に挙がっているテンションを紹介します。
- 警察からの動物の受け入れ:「どう対応したらいいか」というテンションが獣医から挙がっています。地域貢献として受け入れたいけれど、夜間に受診すると3万円ほどかかる。それを警察に請求していいのかどうか。私の考えは「社会貢献だから、治療費のかからない範囲でやってほしい」。でも現場でも考えてみてほしいと投げています。難しいテンションです
- 獣医師の残業が多い:議論中で、まだ結論(チェック)が出ていないもの
- 看護ホテルの適用症例を決めるチャート表を作りたい:これも挙がっているテンション
- 夜間診察の時間や連絡先が分かりにくい、というオーナーからのSOS:これに対して北村先生が「テンプレートに夜間診療のことをまとめました」と解決案を出してくれた
- 看護師のグローブのコストカット、1年目のラパロスペイ担当をどうするか、夜間24時までの診察が始まって、どうか
こうして並べると分かるように、テンションは本当に日常そのものです。大きな理念ではなく、現場の小さな違和感の集まり。それを公式の場に出して、みんなで話し合う機会にしていく。
7. テンションが「自走する組織」をつくる
意見を言うということは、それに対してある程度の責任を負うことでもあります。だから、最初はその一歩がなかなか出せない。でも、テンションを出す→みんなで話し合う→どうジャッジして進めるかを全員が体で覚えていく。これを繰り返すうちに、自走する組織 ができあがってくるのだと思います。
以前、「言わないとみんな動かないんだよね」という悩みを話したことがあります。あれは、院長が何もかも指示してしまう、やってしまうことに原因がありました。テンションのOSは、その逆です。指示を待つのではなく、違和感やアイデアを自分から挙げていく。その積み重ねが、組織を回すエンジンになる。テンションを上げ続けられる仕組みこそ、ティール組織を運営するうえで最も重要なものの一つだと考えています。
まとめ
- ティール組織を動かすには OS(仕組み) が要る。うちは2つのミーティングで回している
- タクティカル(週1・各部門・30分)でテンションを 解決/チェック/保留 に振り分ける
- ガバナンス(月1・各部門代表)で、保留になった部門横断の課題を決める
- テンション は違和感もアイデアも全部。院長も出すが「院長テンションです」と公平に扱う
- 実際のテンションは、警察の動物受け入れ・獣医の残業・グローブのコストなど、生々しい現場の話
- テンションを出し合うOSが、指示待ちではない 自走する組織 をつくる
FAQ
Q. テンションを自由に出せと言っても、最初は誰も書きません。どうすれば?
A. まず院長が率先して出すことだと思います。うちも、私が「院長テンションです」と言って数多く出しています。違和感を一番感じているのは院長であることが多いですし、トップが出すことで「この程度のことを書いていいんだ」という基準が伝わる。そこから少しずつスタッフも出せるようになっていきます。
Q. 「解決」「チェック」「保留」の線引きが難しくないですか?
A. 厳密なルールより、全員で一緒に判断することが大事だと思っています。話しているうちに解決したら解決、勘違いだったねとなればチェック、その場で決められなければ保留。迷ったら保留にしてガバナンスに上げればいい。振り分けそのものを、みんなで確認する行為に意味があります。
Q. 院長の意見が強すぎて、結局レッド組織に戻りませんか?
A. だからこそ「院長テンションです」と宣言するんです。院長の発言を「指示」ではなく「一つのテンション」として場に置く。納得がいかなければ説明するし、こちらが引くこともある。この一手間があるかどうかで、レッド組織に戻るか、ティール組織として回るかが変わると感じています。
澤村 昌樹 — 沢村獣医科病院 院長
